ファリスパーティ。
「さ~て、どうするかな」
船の上で、よく晴れた空に向かって大きく伸びをしながら、
ファリスがのんきな一言を漏らした。
「え?ねぇお頭さん。火のクリスタルに向かうんじゃないの?」
そばへ寄ってきた亜美が尋ねた。
「以前は神聖な場所に安置されていたが、
今では世界でも名だたる難所に封印されてしまっている。
今のままのレベルでは到底攻略なんかできない。
数日使うことになるが、レベルを上げるぞ」
「一番近いのは…ウォルスか。よし!ウォルスを拠点にしばらくレベル上げだ」
ファリスの決定によって、一行は戦闘への慣れを作っていくために、
ウォルス地方へ向かうこととなった。
クルルパーティ。
「……。」
クルルは、飛空艇の上で風に当たりながら、今後の動向を考えていた。
「よし!」と考えをまとめ、みんなを招集した。
「時間もないし、ピラミッドは3つの中では難所としてレベルの低い方だから、
そのまま突入するよ!」
「勝算はあるんですか?」
律子が尋ねる。
「わからないよ。
まだまだ戦い慣れてないし、みんながどれくらい戦えるかわからないもの。
それに、実戦を通じてレベルが上がっていく中で、できるようになっていくよ」
―――大丈夫かしら…。―――
そんな楽天的なクルルの言葉に、律子は不安を感じていた。
◇ ◇ ◇
レナと春香。
「二人とも行ったか。私たちも行こうか」
旅の準備を整えたレナが、春香のもとへ戻ってきてそう告げた。
「はい」
「飛竜で行くよ。付いてきて」
そう言ってレナは、春香と共に飛竜のいる屋上へと上がった。
「さ、行くよ」
「はい」
レナに手を引かれ、春香が飛竜に跨った。
「よし。じゃあ飛竜!お願い!」
その声に応えるように一声いななくと、少しずつ空へと舞い上がり始めた。
「わ、わ、わ…!」
その様子に驚き、春香がレナの後ろでフラフラとし始める。
「ちょっとハルカ、大丈夫?」
肩越しに春香をのぞきながら、
レナが「私の腰にしっかりとしがみついといてちょうだい」と促した。
「さぁ、行くわよ!」
「行くって、どこへですか?」
十分な高度と速度で安定し、春香がレナに尋ねた。
「何をするにしても、まずは情報よ。情報を得るには酒場が一番。
ルゴルという街には一番の酒場があるわ。まずはそこへ向かう」
「はい。わかりました。…!?前から何か向かってきますよ!?」
春香が注意を促す。
―――飛空艇!?この速度と距離…マズイ!―――
◇ ◇ ◇
「もうすぐタイクーンですよ」
飛空艇を操舵する青年が、同乗する女性に話しかけた。
「すみません。私なんかのために、こんな物まで使っていただいてしまって」
女性は、お辞儀をしながら青年に申し訳なさ気にお礼を言った。
「いえ、いいですよ。レナさんはよく知った方ですし、
世界に変調があれば手伝ってほしいと言われていましたから」
青年は気にも留めていない様子で言った。
「何だ?アレ…。!?飛竜!?マズイ!ぶつかる!!」
「揺れますよ!どこかに掴まっていて下さい!!」
青年はそう女性に促しながら、船体と機動のギリギリ可能なところで、
目一杯右旋回に舵を取った。
「きゃぁぁぁあああ!!」
あまりの揺れと力のかかり方に、女性は柱に掴まりながら、しゃがみ込んでしまった。
◇ ◇ ◇
「ハルカ!しっかり掴まって!!振り落とされないでね!」
レナがそうそう言うと、春香は先ほどより力を込め、レナの腰にしっかりと掴まった。
「飛竜!!」
「きゃぁぁぁぁああああ!!」
と飛竜に一声かけ指示を出し、
春香を振り落とさないよう錐揉み状に回避することで遠心力をかけ、
右斜め上方に向かって飛空艇を回避した。
「ふぅ。危なかった。ハルカ、大丈夫?」
「は、はう…あ、あわ、わ、わ…。」
今の危機と機動に、春香は口が利けなくなってしまっている。
「ア、アハハ。ゴメンね。これからはもう少し気を付けるから」
レナが何とか取り繕う。
「い、今の飛空艇ですよね?
でも、クルルさんがこっちへ戻ってくるなんて、何の用でしょうか?
忘れ物でもしたのかな?」
春香が疑問を口にする。
「いえ、今のは違うわ。アレは…」
―――ミドの飛空艇―――
―――タイクーンに向かっているなら…私に用事がある?―――
「飛竜、一度戻って!」
そう指示し、レナ達は一度タイクーン城へと引き返した。
◇ ◇ ◇
「ミド!」
「レナさん!」
飛空艇を操っていた青年は、シドの孫、ミドであった。
「ずいぶん大きくなったわね」と言いながら、
180センチ超はあろうかという立派な青年を見上げた。
出会ったばかりの頃は、14歳という割には
クルルのような女のコと変わらない身長で、
今でも変わらない切り揃えられた前髪と縛った襟足、
まん丸のメガネは、それこそ女のコと見紛う風貌であった。
「それが、ずいぶんいい男になっちゃって♪」
「そんな…!」
レナの言葉にミドが恥ずかしがりながら困る。
「変なことしませんでしたか?小鳥さん」
春香は、怪訝な顔つきで飛空艇の同乗者であった小鳥に尋ねた。
「な!?出会って第一声がソレ!?うぅ…。私ってそんなに信用ないのぉ!?」
小鳥は泣きながら無実を訴えた。
そんなやり取りなどまるでないかのようにレナたちは会話を続ける。
「ありがとう、ミド。
そういえば、私たちが使っていた飛空艇、また飛べるようになったのね」
「ええ。今、変形機構の方も直していますから、
もうすぐ完全に使えるようになりますよ。できたらまた持ってきますね」
「いいわ。私たちが取りに行くから。あなたが持ってきたら帰る方法がないじゃない」
「それもそうですね」と答え、挨拶を済まし、ミドは帰っていった。
「それにしても、小鳥さんも来てたなんて。
こっちの世界に来てるのは、アイドルだけじゃないのかなぁ」
小鳥が来たことで、春香達の推論がブレてしまった。だが、
「そうかしら?私はコトリからも特別なものを感じるけど?
それに、クリスタルの力が弱ってる中で人を呼び寄せるとしたら、
呼び寄せやすい人物しか呼ばないと思うの。
だから、きっとコトリもクリスタルに選ばれてここに来たのよ」
レナはそんなことを言った。
「そうなのかなぁ?」
それでも春香は依然、腕を組んで唸っている。
「春香ちゃん!?私だって昔は…」
小鳥が言いかけたところを、
「さぁ!それよりも急ぎましょう!」
とレナがかぶせる形で会話を切って、全員が飛竜に乗った。
◇ ◇ ◇
ルゴルへ向かう間に、レナは小鳥へ事のあらましを話した。
「なるほど。それでレナさんは、私たち全員を集めようというワケですね」
「ええ。…そろそろ着くわよ」
ルゴルの上空に差し掛かかった時には、すでに夕暮れであった。
飛竜が着陸の体勢に入る。
「さ、到着。飛竜、好きなところへ行っていていいわよ。また用事があったら呼ぶからね」
レナがそう呼びかけると、答えるように一鳴きし、飛竜はどこかへと飛んで行った。
「へぇ。大きなところですねぇ」
春香が街の大きさに目を丸くし、感嘆の声を漏らす。
「もともとこの辺りは他に町や村もなくて、足を運ぶにも困難だったから、
自然が多くて、こぢんまりしているのどかな村だったのだけど、
世界が一つになって開けてからは、名産品である地酒を主とした交易によって、
世界で最も酒場のひしめく『酒場街』として栄えているわ」
レナがこの街の現状について、概略を説明した。
「世界が一つになったというのは…」
街を一通り歩きながら、レナはこの世界に起きたことをさらに説明した。
◇ ◇ ◇
「ずいぶんな数のお店がありましたねぇ」
街を一回りして戻り、小鳥がその言葉を漏らす頃にはすっかり日も暮れていたが、
酒場から漏れる灯りと客たちの声に、街は一層の賑わいを見せていた。
「ざっと40軒くらいかしら。
…それじゃあ、街の奥で、大きなところから順に回っていきましょうか」
レナの意見に二人も賛成し、三人は街の奥の中でも大きい店から回ることにし、
酒場を目指した。